マクドナルドの老夫婦

「ねえ、となり見て」
思わず夫へささやいた。
娘にねだられて行ったマクドナルド。
私たち家族の横の席で、
黙々とハンバーガーセットを食べている老夫婦がいた。
 
一見してずいぶんお年を召された方達だと分かった。
二人とも入れ歯を外したような口元で、腰もずいぶん曲がっている。
ほとんど言葉を交わすこともなく、
もぐもぐと口を動かしている老夫婦は、
中高生や家族連れでにぎわうマクドナルドで、異質な存在だった。
男性は、この暑い中、背広をびしっと着こなし、女性も小綺麗な身なり。
 
「普通あれくらいの年齢だと、マクドナルドなんて脂っこくて食べないよねえ」
夫が言った。
ちょっとした好奇心で、私もちらちらとその夫婦を横目で見ていた。
しばらくすると、男性が背広のポケットから携帯を取り出した。
そして流暢な手つきで、何やら入力し始めたのだ。
 
「うちの母親なんて、メール入力も満足にできないのに」
なかば感心しながら、夫へ言った。
「うちのお袋だってそうだよ」
あの二人はどう見てもお互いの両親より十歳以上うえだ。
 
マクドナルドを出てから夫が言った。
「俺たちも歳とったらあんな老夫婦になりたいよな」
なれるかな、なれるといいね。
なろうね。